証券会社が定める「最良執行方針」とは?見直しの背景と「価格比較」を実現するための「SOR」とは
証券会社は、顧客にとって最良の条件で注文を執行する方針や方法を定めた「最良執行方針」を公表しています。この「最良執行方針」に目を通したことはありますか?初めて耳にする方も多いのではないでしょうか。投資家として「最良執行方針」について少しでも理解しておくことは大切です。短くまとめていますので、最後まで目を通してみてください。
最良執行方針とは
最良執行方針とは、株式などの取引において、顧客にとって最良の取引条件で注文を執行する方針や方法を定めたものです。2005年に導入され、金融商品取引法の規定に従い、各証券会社が定めています。
つまり、「あなたにとって一番いい条件でお取引をします」と書かれているのですが、その条件とは何を指すのでしょうか。
現状は、『価格のみならず、コスト、スピード、執行の確実性等さまざまな要素を統合的に勘案して執行することを義務とし、価格のみに着目して最良でなかったとしても、それのみをもって最良執行義務の違反には必ずしもならないもの』と明記している証券会社が多くを占めます。
株式で例えると、「株価だけでなく、手数料、取引成立までのスピード、注文した株数を1回の取引で売買できるか、などさまざまな要素を考慮しているので、最良の株価で取引が成立しなかった場合も、証券会社は最良を尽くしている」ということです。
「価格が最良かどうか」は比較しなければ分からないですよね。しかし、『原則として、「主たる取引所」に注文を取り次ぐ』としている証券会社が多く、他の取引施設との比較が行われないまま、注文が執行されているのです。
価格比較を行っているのは、どのような証券会社なのでしょうか。
「SOR」というシステムを導入している一部のネット証券(インターネット上の操作だけで出入金や取引を完結できる証券会社)です。
このシステムは、取引所以外の取引施設の気配も検索して価格比較に基づく注文の執行を可能にします。そうしたネット証券の「最良執行方針」には、「SOR」注文や取引所に加えて「PTS」や「ダークプール」にも注文が回送される点について説明がされています。
この「SOR」というシステムの普及に伴い、「いろいろな要素を考慮」するのではなく、個人投資家に対する最良執行方針については、原則として『価格優先』を重視し、それ以外の要素を考慮する場合は理由を説明することが義務化される予定です。
金融庁金融審議会は、2020年にワーキング・グループを設置してから「最良執行」のあり方について検討を重ねてきました。2022年3月末までに、個人投資家に対する最良執行方針については、原則として『価格優先』を重視するよう政令・政府の改正を行う予定です。
この政令・府令の改正により、多くの証券会社は、最良執行方針に「価格優先」を明記し、価格以外の顧客の利益を考慮する場合はその旨及び理由を説明することが義務付けられることとなるため、実質的には「SOR」の導入が必要になると考えられます。
「最良執行方針」にはどんなことが書かれていて、今後どのように変更されるか、なんとなく理解できたでしょうか。それでは、何度も出てきた「SOR」というシステムについて、取引所以外の取引施設について解説していきます。
SORとは?よりよい価格での取引を可能にするシステム。
SORとは「Smart Order Routing(スマート・オーダー・ルーティング)」の頭文字の略です。
複数の取引施設から最良の価格を提示する取引施設を自動的に選択し、注文を出すシステムです。
証券会社によって異なるルールが設定されていて、価格を検索する取引施設の数や順番も異なります。
つまり、SOR注文を選択すると、自分で調べなくても、一番よい値段の取引施設を探してきてより安く購入し、より高く売却することができるということです。
PTSとは
PTSとは、
「Proprietary Trading System (私設取引システム)」の頭文字の略で、
取引所以外で有価証券を売買できる取引施設です。
「主たる取引所」である東京証券取引所(東証)とは異なる呼値や注文方法での取引執行が可能で、取引所取引時間外の朝や夕方、夜にも取引ができます。
「SOR」を導入している一部のネット証券で「PTS発注」あるいは「SOR発注」を選択すると、PTSに注文を回送することができます。
現在、日本では
ジャパンネクスト証券とCboeジャパン、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の3社がPTSを運営しています。
つまり、「SOR」が導入されると最大3つの取引施設の価格比較に基づき、最良の価格で取引が成立するようになるのです。
価格比較に基づく取引までの道のり
- 「最良執行方針」が見直され「価格優先」が義務付けられる
- 証券会社は「SOR」を導入する
- 取引所に加えて、「PTS」などの取引施設にも注文が回送される
- 価格比較に基づく取引の成立
「最良執行方針」の見直しは、投資家保護と透明性確保の重要性の高まりに応えた、個人投資家の取引の利便性を向上させる法改正であると言えます。
本記事に掲載されている全ての情報は、2022年2月28日時点の情報に基づきます。