金融・投資

2023.07.12

今回お話を伺ったのは…

森口亮(もりぐち・まこと)さん

森口亮(もりぐち・まこと)さん

個人投資家、投資系YouTuber。1983年、埼玉県生まれ。元美容師。「Excelで決算数値を管理して、有望な成長株を中・長期的に狙う」という手法で資産を10倍に。その後も着実に資産を増やしている。著書に『1日5分の分析から月13万円を稼ぐExcel株投資』(KADOKAWA)がある。YouTube「毎日チャート分析ちゃんねる」やnote(https://note.com/morip)を日々更新中。

FOMCの基礎知識

FOMCとは何なのか?そこで何が行われているのか?

FOMCとはFederal Open Market Committee(連邦公開市場委員会)の略で、アメリカの中央銀行であるFRBの理事と各地区連銀総裁で行われる会議のことを指しています。

FOMCで決めることは「金融政策」の内容です。金融政策というのは、景気の現在の状況を見て、基本的には政策金利を上げたり(金融引き締め)、下げたり(金融緩和)することを指しています。

中央銀行は銀行の銀行と言われていますが、FRBが政策金利を上昇させると、企業や個人に融資を行う民間の銀行が資金を調達する際の金利の負担が増え、その分だけ貸出の金利も増える傾向にあります。

企業からすると、融資の際の金利の負担が増えるために、成長への投資が鈍化する傾向が強まります。消費者にとっても、金利負担が増えるため、大きな消費を控える傾向が強まり、利上げは景気にとってブレーキをかけるような効果があります。その逆で、利下げは企業や消費者にとって金利の負担が減るため、投資や消費が活発化する傾向があり、景気にとってアクセルを踏んでいるような状態です。

FRBには、「雇用の最大化」と「物価の安定」という2つの使命(デュアルマンデート)があり、常に景気の状態に目を光らせながら、利上げをして過熱した景気にブレーキを踏むべきなのか?利下げをして低迷した景気にアクセルを踏むべきか?をFOMCで話し合って決めることになります。

2023年の日程

FOMCは、約6週間ごとに年に8回行われています。2023年はすでに1月、3月、5月、6月と開催されており、次回会合スケジュールは以下のとおりです。
7月25日・26日
9月19日・20日
10月31日・11月1日
12月12日・12月13日

なぜ投資家(トレーダー)が注目するのか?

FOMCは、投資家にとって最も関心の高い経済イベントになっています。それはなぜかというと、短期的には変動が大きくなりやすく、長期的にはトレンド転換のきっかけになることがあるためです。

金融政策の違いは、先ほどお伝えしたように「ブレーキ」「アクセル」というくらい方向性の違うものです。さらに事前の予想と結果の差によっては、短期的な変動幅が高くなる傾向が強く、トレーダーにとっては見逃せないイベントです。また金融政策の方向性が変われば、株価のトレンドや市場の中で注目されやすいセクターも大きく変化していくため、長期の投資家から見ても必ず押さえておきたいイベントです。

最近の大きな政策転換の例として、コロナショックからの政策転換があります。

新型コロナウイルス感染拡大によって、2020年2月〜3月にかけてコロナショックと呼ばれる暴落が発生しました。直後の2020年3月のFOMCでは、世界的な経済危機に対応するためにゼロ金利政策へと切り替え、それまで1.75%だった政策金利を0.25%まで一気に引き下げました。

それと同時に米国債を購入するなど、FRBが自ら直接的に資金供給を行う大規模な金融緩和が行われました。コロナショック後に株価が急激に上昇して一気に史上最高値を更新したのは、まさに大規模な金融緩和によって「アクセル全開」といった形となり、市場に資金が大量に供給され、余った資金の一部が株式市場に流れ込んでいたためです。

しかし、大量の資金供給の影響から景気は過熱し、物価の上昇率(インフレ率)が高くなってきたため、2021年の11月ごろからテーパリング(量的緩和の縮小)といって、いままでベタ踏みしていたアクセルを少しずつ弱めることを始めました。
このときには成長企業が多く上場しているナスダック指数が米主要指数の中で、いち早く天井を打って株価が下降トレンドへと転換しています。

また、NYダウやS&P500といったほかの主要指数についても、FOMCで利上げの可能性が議論され始めた22年1月には天井を打ち、トレンド転換しています。

このように、金融緩和→テーパリング→利上げ(金融引き締め)と、政策が段階的に転換されていくことが株価のトレンド転換のきっかけになっているのです。

投資家たちは、この大きなトレンドを外さないために、毎回FOMCにて、今後のFRBの政策スタンスに注目をしているのです。

直近のFOMCではどんな事象が起こったか?

直近のFOMCではどんな金融政策が取られ、どんな話し合いが行われたのかを確認してみましょう。

2023年5月2日、3日に行われたFOMCでは、0.25%の利上げが実行され、23年6月現在の米国の政策金利は5%〜5.25%となっています。利上げは10会合連続で、コロナショックより後で利上げを開始した22年3月からの約1年2ヶ月の間で、合計5%もの政策金利が引き上げられました。

これは過去にないほど早いペースでの利上げです。利上げには景気にブレーキをかける効果があるため、現在でも急速な利上げの副作用として景気後退が懸念されています。

それでもFOMCメンバーの中にはタカ派(利上げに賛成)とハト派(利上げに反対)がいて、今後の政策スタンスについては意見が大きく分かれており、6月以降の利上げをするかしないかについては「データ次第」との意見が多く見られます。
5月のFOMC開催直後は、一時的に株価が下落。同時に米長期金利が低下してドルも下落しました。これは、政策金利が引き締め水準である5%を超えてきたにも関わらず利上げが継続していることや、利上げ停止に対してはっきりと見通しが立っていないことから、利上げ長期化による景気後退を懸念した動きではないかと私は分析しています。

ただし、利上げが継続する中でも昨年と明らかに違う動きが出てきています。それは、テクノロジー株や成長株が多く上場しているナスダック指数がFOMCの数日後から再び上昇を始め、ほかの主要指数よりも早く年初来高値を更新している点です。

本来、利上げは景気にとってブレーキになり、特に成長を必要とするテクノロジー企業にとってはネガティブな材料にも見えるのに、どういったことなのでしょうか?

ナスダックの株価上昇のキッカケを作ったのは「主要企業GAFAMの決算発表」です。主なビッグテック企業であるGAFAM各社は、決算での業績見通しで市場予想を超える企業が目立ちました。主要企業としても、金融政策の方向性を意識して業績見通しを立てていると思われますが、仮に景気後退となった場合でも、プラットフォーマーとしての圧倒的な強みを持ち、先行して大規模なレイオフを実行してきいるため、業績が崩れにくくなっているのではないかと想定されます。

また仮に景気後退になるならば、「利下げ」へと金融政策の方向性が転換する可能性が高く、常に先を見る株式市場では、GAFAMのような強みを持った主要テクノロジー企業に注目が集まったのではないでしょうか?
このように重要な結果や変動が起こるFOMCですが、結果が伝わってくるのは日本時間の深夜3時以降なので、時間外のPTS市場を含む、日本市場での取引ができません。

日本株をメインに取引している私としては、FOMCの開催日に向けてリスクポジションを縮小するなどのリスク管理を徹底するようにしています。ただし、やはり予想と結果を一致させることは難しく、FOMCの内容次第では、直後に新たな売買が必要な場合も多いです。

その時に活用しているのは、FOMC直後の朝のPTS取引です。株式市場は午前9時から取引が開始されますが、PTS市場であれば午前8時20分から取引が可能になります。

通常は、大きな材料がない限り、朝のPTS市場での売買が少ないため、取引価格に注意が必要とはなりますが、FOMC直後の大型株や指数連動型のETFに取引するチャンスがあるためです。特に大きな政策の転換期に差し掛かりつつある最近のFOMC直後は、朝のPTS市場での気配状況をチェックするようにしています。

まとめ

ということで、FOMCについて解説をしてきましたが、最後にポイントをまとめて今後のFOMCにより注目をするきっかけにしていただければと思っています。

まず、基本知識として、FOMCとは、アメリカの中央銀行であるFRBと地区連銀総裁で行う金融政策を決める会議のことを指しています。景気に対して、利上げ(金融引き締め)はブレーキ、利下げ(金融緩和)はアクセルのような効果があります。

FOMCの後は、短期的に変動幅が上がる傾向が強く、長期的なトレンドの転換のきっかけになるため投資家が最も注目する経済イベントの一つです。また、株価は未来を織り込みながら動く傾向があるため、今後の金融政策が引き締め方向なのか?緩和方向なのか?を見据えて取引対象を選定していくことが必要です。

また開催日前後に変動が大きくなるため、リスク管理は徹底しつつ、直後のPTS市場で気配値に注目することがチャンスに繋がる場合もあります。

こういった点を理解して継続的にFOMCを見ていると、何度かに一度は大きな流れを明確にイメージできる時があるものです。もちろん投資の世界に絶対はありませんが、金融政策の方向性を掴まず取引をする行為は、地図を持たずに航海に出るのと同じくらい無謀なものです。

FOMCについての基本を理解することは、取引のタイミングを見つけるきっかけにもなると思います。今後もFOMCに注目していきましょう!
※本記事に掲載されている全ての情報は、2023年6月19日時点の情報に基づきます。

※ あくまでも森口さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引を誘引するものではありません。

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