金融・投資

2024.08.28

今回お話を伺ったのは…

森口亮(もりぐち・まこと)さん

森口亮(もりぐち・まこと)さん

個人投資家、投資系YouTuber。1983年、埼玉県生まれ。元美容師。「Excelで決算数値を管理して、有望な成長株を中・長期的に狙う」という手法で資産を10倍に。その後も着実に資産を増やしている。著書に『1日5分の分析から月13万円を稼ぐExcel株投資』(KADOKAWA)がある。YouTube「毎日チャート分析ちゃんねる」やnote(https://note.com/morip )を日々更新中。

「テクニカル分析」とは?

「テクニカル分析」というのは、チャートの分析を指しています。チャートとは、過去の株価(もしくはその他の金融商品)の動きを可視化したグラフのことを指していて、このグラフの分析を「テクニカル分析」と呼んでいます。
ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析
株式投資の代表的な分析方法には、もう一つ、ファンダメンタルズ分析があります。この二つの分析の違いは何か? というと、「チャートか、それ以外か?」の違いです。
つまり、チャート以外の全ての分析をファンダメンタルズ分析といいます。そもそもファンダメンタルを直訳すると「基本的な」という意味となり、投資の世界では、国や企業などの経済状態を表す指標のことを指すのです。国や地域といった広いマクロ的な視点では、経済成長率、物価上昇率、財政収支などがこれに当たります。一方、個別の企業のように狭いミクロ的な視点では、売上高や利益といった業績や資産、負債などの財務状況に加えて、PERやPBRといった指標の分析が挙げられます。
まずは、「チャートか、それ以外か?」の違いを押さえておきましょう!

便利だけど万能ではない…テクニカル分析の落とし穴

個人投資家がテクニカル分析を使用するさまざまなメリットがある一方で、デメリットや注意点もあります。ここではテクニカル分析のメリットとデメリットについて押さえておきましょう。
メリット①将来の価格の予想ができる
テクニカル分析は、金利や業績などから考える会社の価値ではなく、単純に価格に焦点を当てた分析であり、長い株式市場の歴史からの経験則により、将来の価格の推移を予想することができる点は、投資家にとって非常に有効だと思います。
経験則の例えとして、株価には一度トレンド(方向性)が発生すると一定期間継続する、トレンド(流れ)の転換時には特定のパターンがあるなど、いくつかの傾向があることが知られています。
メリット②ファンダメンタルズ分析を補う
チャート以外の全ての分析がファンダメンタルズ分析だと言いましたが、ファンダメンタルズ分析には、国の「経済」「政治」「政策」など広い視点のマクロ分析から、個別企業の「業績」「財務」などといったミクロ分析まで、あげればキリがないほどの情報が、複雑に株価に影響を与えています。その全てを正確に分析することは、時間的にも労力的にも不可能です。
そこで、テクニカル分析を行うことによって、ファンダメンタルズ分析の補助として使うことが可能です。どういうことかというと、株式市場は多くの参加者によって株価が形成されており、すでにさまざまなファンダメンタルズの要因を織り込みながら先行性を持って動いています。そのため株価のトレンドやパターンを分析すること自体が、分析しきれないファンダメンタルズの要因を補うことにつながります。
メリット③リスク管理に役立つ
テクニカル分析には、上昇や下落のトレンドの目安や、買いサインや売りサインといった売買のサインがあり、売買の基準とすることができます。
投資の鉄則は「損小利大」といわれますが、特に株式投資の場合には、「上がるのでは?」と思って株式を選定しているため、想定が外れて値下がりした場合の損切りが遅れて損失が相対的に大きくなりやすい傾向があります。
その点において、テクニカル分析を上手に活用して売買基準を設けると、損切が実行しやすく、損失を限定的にすることも可能です。
その一方でテクニカル分析には以下のようなデメリットも存在します。
デメリット①万能ではない
テクニカル分析は、過去の経験則を用いた傾向の分析なので、「100%こうなる!」という分析ではありません。多くの投資家が参考にしている王道の分析方法ですが、どんなに王道の分析手法の、わかりやすい買いサイン(または売りサイン)だとしても、サイン通りに株価が動く確率は100%ではありません。
売買のサインに対して、確率以上に期待してしまう(絶対に上がるはずだと思い込むなど)と、思っていたような結果が出ずに、テクニカル分析自体を使わなくなったり、誤った認識や使い方をしたりすることに繋がってしまいます。
デメリット②種類が多い
テクニカル分析と一言で言っても、移動平均線やトレンド分析といった基本的な分析から、RSIやストキャスティクスといったオシレーター系のような複雑な分析方法まで、様々なテクニカル指標が存在します。
投資初心者からすると、「どの指標を使って、どう判断すれば良いのか?」と迷うこともあるでしょう。また、少し慣れてくると、あれもこれも組み合わせてしまって、かえってわかりにくくなったり、誤った売買判断をしてしまったりすることにも繋がります。
テクニカル分析を使う際には、計算式や利用用途、そして売買サインを正しく理解した上で、利用することが大切です。
なお、この記事の中では、投資における最も基本となる王道のテクニカル分析をご紹介しますので、ご安心ください。

短期チャートしか見ないのは危険!テクニカル分析で注意すべきポイント

テクニカル分析を活用する際に特に気をつけたいことは、時間軸です。
株式投資に慣れてくると、特にデイトレードやスイングトレードなどの短期的な取引をする際に、ついめんどくさくなって、取引の判断で使うチャート(日足チャートや5分足チャートなど)だけを見て売買を行いがちです。ただし、週足チャートなどの長期的なチャートを見ずに取引することは、私の投資経験においても危険な行為だと認識しています。
どういうことかというと、株式市場には、デイトレーダーのような短期トレーダーもいれば、長期で株式を保有する長期投資家もいます。でも取引する場所は全員同じ株式市場であり、短期のトレーダーだろうが、長期投資家だろうが、買いは同じ買いで、売りは同じ売りです。
長期チャートを見ずに取引をするということは、長期投資家の視点を無視することになります。短期チャートだけを見て投資判断を行うと、大きなトレンド(流れ)に逆らった取引をしたり、長期投資家にとっての重要な節目を無視した取引になった場合に、思った以上に損失が大きくなりがちです。
まずは、長期チャート(週足チャートなど)を見てから、その後自分の投資の時間軸にあったチャートまで時間軸を調整していくのが良いでしょう。

実践編!テクニカル分析の活用法

次にテクニカル分析で、何をどう見れば良いのか?具体的に説明していきたいと思います。今日ご紹介するのは、テクニカル分析における基本中の基本です。
この基本は、応用のテクニカル分析においても、ベースとなる考え方なので、知っておいて損はありません。
まず大枠として、どんな順序で分析をするか?というと、最初に「トレンドの確認」を行い、次に「売買サインの確認」をしていきます。
初心者の方に最初に表示してみていただきたいのは、「週足チャート」です。週足チャートというのは、グラフ上の一本のローソク足が1週間の動きを表しているグラフです。現在は、各証券会社や情報サイト上で無料で表示できるものも多いのでまずは週足チャートを表示してみてください。
週足チャート上をみてみると、ローソク足とともに線が引いてあるチャートが表示されるケースが一般的です。この線が最も重要なテクニカル分析の基本である「移動平均線」です。今日はぜひ「移動平均線」の見方や分析方法を知っていただきたいと思います。
移動平均線の計算式は以下の通りです。
直近の終値+1本前の終値+2本前の終値・・・+(N-1)本目の終値)÷N です。
たとえば、5日移動平均線だったら、(本日の終値+昨日の終値+2日前の終値+3日前の終値+4日前の終値)÷5 となります。
移動平均線は、終値の平均値を一定期間ごとに算出し、つなぎ合わせたものです。
週足チャートにおける主要な移動平均線として多くの投資家が見ているのは、
13週移動平均線(約3ヶ月間の平均)
26週移動平均線(約半年間の平均)
52週移動平均線(約1年間の平均)
の3本です。

株価トレンドを見るポイントはここ!

この中でトレンドの確認として、「52週移動平均線の向き」でトレンドを確認していきます。この時、移動平均線の向きでトレンドを判断するのですが、望ましいのは「上昇トレンド」の銘柄です。そしてさらに望ましいのは、「上昇トレンドの初期段階」の銘柄です。このような銘柄は大きな売買のチャンスと捉えます。
一方で避けたいのは「下降トレンド中」の銘柄です。52週移動平均線の向きを見ながら、明らかに線が下を向いている銘柄は、まだしばらく下落が続くリスクがあるので投資候補からは除外します。
しかし、52週移動平均線の向きが、徐々に下向きから横向きに変わりつつあったり、まだ上向きに変わったばかりだったりという銘柄には注目をしていく、という流れです。
また、52週移動平均線がずっと上向きを維持していて、業績と株価から割安性を測るPERのような指標から、まだ株価の上昇余地があると判断した場合には、同じように注目をしていきます。
まずは、週足チャートの52週移動平均線を表示して、線の向きから現在の株価トレンドを確認してみましょう。

売買サインを見るポイントはここ!

次に確認したいのは「売買サイン」です。
一言で売買サインと言っても、数え切れないくらいのサインが存在します。今日はその中でも特に王道と呼ばれるチャートパターンと買いサインを合計で五つご紹介します。特に最後の買いサインについては、すぐにでも活用してできるサインだと思いますので、ぜひ今日からでもご活用いただければと思います。
◎「上昇転換」を示す王道3パターン
まず押さえておきたいのが「上昇転換」のチャートパターンです。「上昇転換」というのは、いままでのトレンドから上昇方向に変わることを意味しています。
この転換のタイミングで買うことができれば、中長期的に見て有利な価格で投資できている可能性が高いです。
ここでは、「上昇転換」を示す超王道の3パターンをご紹介します。
株価チャートの「転換」王道パターン
①ヘッドアンドショルダーズボトム(逆三尊)
②ダブルボトム
③トリプルボトム
①ヘッドアンドショルダーズボトム(逆三尊)
ヘッドアンドショルダーズボトムは最も王道の転換パターンです。
真ん中の安値が最も低く、左右にひとつずつ安値を形成する形です。ヘッドの位置を境にして、下降トレンドの基本の動きから、上昇トレンドの基本の動きに変化したのが、ヘッドアンドショルダーズボトムになります。
多くの投資家が「この形」を認識しているので、チャート上に綺麗に出れば出るほど、この転換パターンが効果を発揮しやすくなることが期待されます。
ちなみに、逆にすると天井のパターンとなり、ヘッドアンドショルダーズ(三尊天井)となります。こちらは、利益確定(または損切り)の際に参考になるサインです。合わせてチェックしておきましょう。
②ダブルボトム
こちらも超王道の転換のパターンです。
相場の世界ではよく「二番底」を確認してから、買いに転換する投資家が多いと言われます。ほぼ同水準で2回安値をつけた後(2番目の安値が、1番目の安値を割っていないほうが信頼度は高い)に、直近高値を超えていくという形です。
これも形として覚えている投資家が多く、ローソク足チャートで表示した際に、誰がどう見てもこれがダブルに見える状態であれば信頼度はより高まるでしょう。
この逆の形をダブルトップといい天井のパターンとして使用することが可能です。
③トリプルボトム
最後にトリプルボトムです。こちらも王道ですが、考え方は、ほぼダブルボトムと同じです。トリプルボトムは、ほぼ同水準の安値を3回付けています。真ん中の安値が明らかに低い場合は、ヘッドアンドショルダーズボトムのチャートパターンで、同水準の場合がトリプルボトムです。
ダブルボトムとの違いは、形成までにかかる時間の長さです。
トリプルボトムは、より長い時間をかけて形成され、チャートを見ている人の多くがこのパターンを認識できます。
そのため、直近高値を超えて、買いシグナルとなった場合、その上昇エネルギーは、ダブルボトムの時よりも大きくなりやすいといわれています。
こちらも、逆にするとトリプルトップという天井サインとしても使用できます。
トレンドを分析するうえで、「直近安値」と「直近高値」を意識するとチャートへの理解が深まります
下降トレンドとは、「直近高値を超えられずに直近安値を割り込む」状態です。しかし、トレンドに変化が現れると、直近安値を割り込まなくなり、逆に直近高値を超えていく動きに変わります。
一般的にチャートパターンは、「形」で覚えることが多いのですが、このようなトレンドの構成の基本も合わせて押さえておくと、よりテクニカル分析への理解も深まります。
◎超王道2パターンの買いサイン
次に、王道の買いのサインを二つご紹介します。こちらも超王道と呼ばれるサインなので、覚えておいて損はないでしょう。
代表的な買いのサイン2選
①もみ合いからの上放れ
②初めての押し目(初心者はこれを狙いたい)
①もみ合いからの上放れ
もみ合いからの上放れとは、株価が安値圏において、一定のレンジ内で推移(もみ合い)したあとに、レンジの上限を超えて上昇していくパターンです。
もみ合いの期間は長ければ長いほど上昇エネルギーが高くなることで知られています。
安値圏でもみ合っている状態というのは、買いと売りのバランス(需給)が拮抗している状態です。そのバランスが崩れるタイミングが「上放れ」になります。
期間が長いほうが上昇しやすくなるのは、長ければ長いほど高値水準への意識が高くなり、高値を超えるだけの買い需要が発生している可能性が高いためです。個別株で見ると、多くの場合、決算や業績の上方修正といったポジティブなニュースが多くなります。
「もみ合い」の長さの目安としては6か月以上と言われることが多いです。
この状態でレンジ上限を超えてくる動きが発生すれば、移動平均線の向きが一気に上向きとなり、今後上昇トレンドとなることが期待できます。
②初めての押し目(初心者はこれを狙いたい)
「押し目」とは上昇トレンドにある株価が、一時的に下落することです。押し目買いは有効な買いサインの一つです。移動平均線には、株価が線の上から下がってきた時の「サポートの目安になる」という傾向があります。その時に買いの目安となるのが、主要な移動平均線となり、下がった時に買うので「押し目買い」と呼ばれています。 
ここで特に意識したいのが、上昇トレンドに転換後に最初につける押し目で、「初押し」などと呼ばれたりします。
トレンドが発生した時には、一定期間そのトレンドが継続することが経験則から知られていますが、そのトレンドがずっと続くわけではありません。だからこそ、上昇に転じた初期段階で買うことが、有利な投資を進める上で重要になるということです。

テクニカル分析活用のポイントをまとめると…

ここまでのチャート分析の流れとしては、以下のようになります。
・週足チャートを表示して52週移動平均線の向きで大きなトレンドを確認する
・52週移動平均線が下向きから上向きに変わりつつある銘柄に注目
・日足チャートにしてみて転換のサインが確認できれば投資の有力候補とする
こうした分析を実行した場合、株を最安値で買うことはできませんが、上昇トレンドにおける初期段階で購入できる可能性が高まり、中長期的な優位性が高まります。
とはいえ、テクニカル分析に絶対はないので、買いサインがダマシとなって、想定と違って下がってしまった場合の損切りの目安もしっかりと決めて投資を実行することも忘れないようにしましょう!
ここまで、テクニカル分析を踏まえた転換サインや買いサインの話をしてきましたが、とても大切なことは、上昇の可能性の高い銘柄群をひとつひとつなるべく早く分析して、上がる期待が持てると思った株から目を離さないことです。
転換のサインも、買いのサインもその時の一瞬の出来事であり、気がつくとあっという間に過ぎ去ってしまいます。自分の決めた注目株からは目を離さないようにしましょう!

まとめ

ということで、ここまでテクニカル分析の基本として、移動平均線やチャートパターン、買いサインなどについて解説をしてきました。特に「上昇トレンドの初押し」は具体的な買いの目安としてすぐに実践できる目安になると思います。
ただし、最後にもう一つだけ注意点を述べておくと、初押しは買うのに少しだけ勇気が必要です。なぜなら、つい最近まで下降トレンドだったためです。
まだみんなが上昇に対して半信半疑だからこそ、まだ安値圏にいるのですが、そういった銘柄を買うのですから、その銘柄を買う根拠がなければ、勇気を持って買い注文を実行することは難しいでしょう。
この記事はテクニカル分析のみを解説していますが、やはりリスクをとって株を買うためには、投資先についてよく理解しておく必要があり、理解するためには「ファンダメンタルズ分析」が必要です。
投資において、テクニカル分析とファンダメンタルズ分析、どちらかで勝負しなければならないというルールはどこにもありません。ぜひ、投資先の業績やPERなどの割安性を測る指標のファンダメンタルズ分析も行ってみてください。投資対象を自分がしっかりと理解することは、リスク管理上最も大切なことだと思います。
また、押し目買いについては、買いの勢いが強ければ強いほど買うべき有望な銘柄であるが故に、なかなか有利な価格までは下がってこないものです。
その時には、PTSの夜間市場を活用して、希望の価格に指値の買い注文を入れておくことで、希望の価格で買えるチャンスが広がります。PTSの夜間市場では、日中の取引時間に比べて、取引される株数が少ないため、一時的に押し目まで下がってくる動きも散見されます。
ただし夜間市場の活用についても、しっかりと理解している銘柄で買いの理由があるからこそ、実践できる方法だと思います。

最後に

テクニカル分析は投資家にとってとても重要な分析方法の一つですが、基本を知らず、使い方を誤ってしまっては、リスクが広がってしまいます。多種多様な分析方法が存在する中で、今回、本当に基本的な分析方法の一部をご紹介しました。
まずは、移動平均線や売買サインといった基本に沿って学び、実践し、使い慣れてきたら、応用のテクニカル指標として、一目均衡表やRSI、MACDなども活用できるように知識を深めていくのも良いでしょう。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2023年9月27日時点の情報に基づきます。
※あくまでも森口さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。

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