金融・投資

2024.12.26

相場格言「辰巳天井」に込められた意味は?2025年の株式市場を予想【投資スイッチ! #26】

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本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

キリオフィス代表、株式投資スクール講師、CFPファイナンシャルプランナー。個人投資家として2010年より株式投資をはじめ、5年で資産を10倍に増やす。数字オンチの人も含め普通の人が趣味として楽しめる株式投資を広めるため、講師、講演者、パーソナルトレーナーとして活動中。講座は特に女性に人気で、毎回キャンセル待ちが出るほど。著書に「月収15万円からの株入門 数字オンチのわたしが5年で資産を10倍にした方法」「ド文系女子の株の達人が教える 世界一楽しい!会社四季報の読み方」(https://www.amazon.co.jp/dp/B09PB1FT8H/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1)など。
YouTube:藤川里絵の女子株CH『はじめの一歩』 - YouTube(https://www.youtube.com/channel/UCrsiRmd8Bq7CmaXljd8PDKw

Introduction

株式市場では、投資家の間で実しやかにささやかれる“アノマリー”があります。“アノマリー”というのは、「理論的な根拠はないものの、経験的にしばしば見られる相場」のことです。根拠はないといいつつも、投資家みんなが意識することで、実際そうなりやすいのであながちバカにできません。
年末年始のアノマリーでいえば、まずは「掉尾(とうび)の一振(いっしん)」です。これは、年末に株価が上昇しやすいとされるアノマリーのひとつで、12月後半から大納会(その年最後の取引日)にかけて株価が上昇する傾向を指します。「掉尾」とは「物事の終わり」、つまり年末を意味し、「一振」は株価が力強く上昇することを表しています。そのため、投資家は、12月に入ると「掉尾の一振」を期待してソワソワし始めます。

「掉尾の一振」には根拠がある?

理論的に根拠はないといいつつも「掉尾の一振」が起こりやすいと考えられる理由はいくつかあります。
1.年末のウィンドウドレッシング
ファンドマネージャーが年末に好業績の銘柄を購入してポートフォリオを美化する行動のこと。好調な銘柄を買い増しすることが、株価上昇につながるとされています。
2.配当狙いの買い
12月決算企業の配当権利取りに向けて、配当利回りが高い銘柄への買いが強まることがあります。
3.節税売りの収束
年末の利益確定売りや損失確定売りが一巡した後に、あらためて買い戻しが入りやすくなります。
4.年末の楽観ムード
投資家心理が年末に向けて楽観的になりやすく、特に年末商戦や景気の回復期待が強まる時期には株価が上昇しやすくなります。
5.年明けへの期待感
投資家が新年を前にポートフォリオを整えるため、買いが優勢になることがあります。
6.出来高の減少
年末は休暇に入る投資家が多いため、市場全体の出来高が減少する傾向があります。そのため、買いが少し入るだけでも株価が上昇しやすい状況になることがあります。
これだけ理由があれば、そうなるに違いないと思ってしまいそうです。
年末年始には「ご祝儀相場」というおめでたいアノマリーもあります。その名のとおり、大納会や、大発会(その年最初の取引日)に向けて、株価が上がりやすいというものです。とくに大発会は、新年における投資家心理の高揚感もあって、ご祝儀的な買いが入りやすくなります。
このアノマリーを意識して投資戦略を立てるなら、年末に買って年始に売るのがよいでしょう。
短期的にはなりますが、宝くじを買うような感覚で、日経平均株価に連動する野村日経平均ETF(1321)を大納会の12月30日に買って、大発会の1月6日に売却するという戦略が考えられます。ちなみに、過去1994年から2023年の間の30年間で、日経平均株価の大納会の終値と大発会の始値をみると、なんと20回およそ66.7%の確率で上昇しています。宝くじよりは、確率が高い勝負ですね。
ただし、当然ですが、アノマリー通りにならない場合もあります。
過去を振り返ると、大きなリスクイベントが起こった年には、このアノマリーが当てはまっていません。
歴史的にも苦い出来事として記録されているのは、1989年の大納会と1990年の大納会です。1989年12月29日の大納会は、日経平均株価は38,957円の史上最高値を更新しました。そして、翌年1990年1月4日の大発会は、38,922円からスタートし、終わり値は38,713円で203円の反落。まさにこの下落は、バブル崩壊の始まりのサインとなり、ご存知のとおり、その後、2024年7月まで35年間にわたって、大納会につけた高値を超えることができませんでした。
そういったリスクも踏まえて、楽しめる範囲でアノマリーに乗ってみるのはおもしろいです。

投資のヒントになる5つの相場格言

日本には、アノマリーと似たもので相場の格言というのがあります。わたしの好きなものをいくつか紹介しましょう。
1.「頭と尻尾はくれてやれ」
売り時や買い時に迷ったときには、いつも思い出す格言です。株価の底と天井を当てるのは至難の業なので、それを狙わず、ほどほどのところで満足しましょうという教訓。
昨今、AIやアルゴリズム取引が主流となり、完全に底や天井を捉えることはますます困難になっています。そのため、部分的な利益確定を柔軟に考えることが重要です。
2.「もうはまだなり、まだはもうなり」
これはよく受講生の人たちにお伝えする格言です。「こんなに下がったのだからもうそろそろ買ってもいいと思います」とか「まだまだ上がると思うんですよね」って言ったときに、スパっとこの格言を放ちます。もうと思ったときは、まだだと思ったほうがいい、まだまだと思ったときは、もうと思ったほうがいい。そういった客観的な視点を忘れないのにもってこいの格言です。
3.「休むも相場」
これは、個人投資家ならではの特権を意味する格言です。うまくいかないときは無理に売買せず、お休みするのも立派な作戦です。
4.「人の行く裏に道あり花の山」
わたしは、あまり視聴率の高くない小型株を発掘するのを得意としていますが、まさにこの格言に則っているといえます。たくさんの人が注目している人気銘柄はすでに割高になってることが多く、まだ注目されていない割安銘柄にこそ大きなチャンスがあります。
5.「相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」
なんだか詩のようなリズム感のある格言ですが、大暴落やバブルのような過熱感があるときによく使われます。2020年3月、コロナショックと呼ばれる大暴落が起きたときは、世界総悲観でしたが、株価は政界経済の回復前に育っていきました。まさにこの格言通りです。

2025年の日本・世界経済をどう読み解く?

2024年の前半は、日本株が驚くほどのスピードで上昇し、7月には史上最高値の42,426円をつけました。そこからは、日銀の金利引き上げという金融政策の変更もあり、日経平均株価は大きく下落。1日に1,000円、2,000円と大きく上下するボラティリティの高い相場をこなしつつ、年度末には、39,000円近辺で1日の値幅は200円程度の膠着感漂う雰囲気となっています。
さて、2025年はどういった年になるのでしょう。
ひとつ気になる相場格言があります。
辰巳天井」。その名のとおり、辰年と巳年は株価が天井をつけやすいことを意味しています。たしかに2024年の辰年は、日経平均株価が史上最高値を更新、アメリカのNYダウやS&P500指数も最高値を更新しました。となると2025年巳年は、この流れで高値を更新し、それが天井となって、下降トレンドに転じるのでは?と警戒してしまいます。
たしかに過去データをみると、1980年代以降の天井は、バブル崩壊前の1989年(巳年)と、ITバブル崩壊前の2000年(巳年)と、巳年が大きな転換点となっています。警戒というほどまでいかなくとも、下落したときに大怪我をしない程度のリスク管理はしておいたほうがよいでしょう。
格言はともかく2025年に株価に影響を与えると思う要因は、今の時点でも明確です。まず、アメリカ大統領にトランプ氏が就任することが決定しています。すでに、世界中が、彼の発言や行動に注目していますが、トランプ氏の一挙一動で株式市場が振られることは覚悟しておきましょう。ただし、基本的にトランプ氏は、株価が下がること(少なくとも米株)は嫌いますから、株式市場にとってマイナスになるようなことは避けると思います。
各国の金融政策も重要です。まず日本は、政策金利を引き上げる方針です。物価が上昇し、賃金もそれに伴って上昇し、金利が上がる場合は、極めて正常な経済の状態ですので、株式市場も比較的堅調だと予想できます。一方で、物価の上昇に賃金の上昇が追いつかない場合は、消費意欲が低下し、景気が悪化します。当然、株価も下落しやすくなるでしょう。
一方で、アメリカは金利を引き下げています。 2022年、2023年と急激に引き上げた政策金利のおかげで、上昇の一途だったインフレ率の伸びが鈍化したため、2024年から引き下げに転じました。金利の引き下げは、消費や投資にお金を回しやすくなるため、経済にとってはプラスの影響があります。消費が強すぎて、ふたたびインフレ率が上昇してしまうと困りますが、そうでなければ米株は引き続き堅調だと思います。
そして、やはり無視できないのが中国経済です。トランプ氏の就任で、米中関係がふたたび悪化し、中国経済がさらに低迷するのではないかと警戒されていますが、実際にどうなるかは分かりません。中国政府による大規模な経済対策が実施される予定もあり、その成果が現れれば、世界経済に与える影響は大きくなります。中国の景気がよくなれば、原油や鉄鉱石、銅など商品の需要が拡大し、これがインフレをもたらす可能性もあります。そうなると、アメリカが金利をふたたび引き上げることも考えられますので、この場合は、株式市場にはネガティブです。

まとめ

2025年がどうなるのか決め打ちすることはできません。著名な金融ストラテジストや、エコノミスト、アナリストといった方々でも、年初の経済見通しや株価予想が当たることは稀ですので、そもそも予想すること自体ナンセンスかもしれません。
常に、経済の動向をキャッチできるようアンテナを立て、何か変化を感じたら軽やかに対応できるよう準備運動はつねにしておきたいものです。
最後に2025年だけでなく、どんな相場にでも通じる心構えをお伝えしておきます。
1.ひとつの資産に集中投資せず、分散投資を心がけること
2.キャッシュポジションを適度に確保しておくこと
3.いい時も悪いときも永遠ではないと肝に命じておくこと
※本記事に掲載されている全ての情報は、2024年12月18日時点の情報に基づきます。
※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。
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