株式

2024.05.27

「株式分割」は買い材料?個人投資家が押さえておきたい株式分割の影響

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近年、株式分割する企業が増えています。最近でも、4~5月の決算発表の際に株式分割を表明する企業が相次ぐなど、ますます注目度の高まるテーマとなっています。 今回は、株式分割が増えている背景、株式分割が株価や流動性に与える影響などを解説します。

今回お話を伺ったのは…

中村賢司(なかむらけんじ)さん

中村賢司(なかむらけんじ)さん

ライフプランニングゆめたまご/FPサポートセンター株式会社 代表取締役
ファイナンシャルプランナーとして、個人のコンサルティングを行いながら、テレビやラジオなど様々なメディアを通じて、家計管理やライフプランの重要性、投資知識ついての発信にも取り組んでいる。
ライフプランニングゆめたまご(https://yumetamago.com/company/

「株式分割」って何? 株式分割銘柄が増えている背景

株式分割とは?

株式分割とは、1株を1株以上の株数に分けることをいいます。例えば、A社の株を1株(株価1万円)持っていたとしましょう。このA社の株が1対2で株式分割されると、その1株が2株になり保有株数が増えます。しかし、分割後の株の値段は5,000円になります。つまり、あなたの持っている株の価値は変わらず1万円のままですが、株の保有数が増えるということになります。
株式分割にはいくつかの理由があります。まず、株価が高すぎると多くの人が株を買いづらくなります。株の売買単位は100株単位なので、1株1万円する株を購入するには100万円も資金が必要です。しかし、1株が5,000円になると50万円で投資できるので、多くの人がその株を買いやすくなります。つまり、株式分割の目的の一つは投資家の裾野を広げることです。
また、株式分割は株の取引をより活発にするためにも行われます。株価が高いと、取引が少なくなりがちです。しかし、株価が低くなると、売買がしやすくなり、取引が増えます。株式分割のもう一つの目的は取引しやすい価格にすることで流動性を高めることです。

株式分割を行う企業が増えている背景

近年、株式分割を行う企業が増えています。その背景にはいくつかの理由があります。まず、東京証券取引所(東証)の取り組みが挙げられます。東証は市場の流動性を高めるために、株価が高すぎる銘柄に対して株式分割を推奨しています。市場の流動性とは、株がどれだけ簡単に売買できるかということです。流動性が高いと、株の取引が活発になり、市場が賑わいます。
また、NISAは10年前から始まった制度ですが、2024年に開始した新NISA制度では、年間投資限度額の大幅な増額に加えて非課税期間も無期限となり、新NISAを使って投資する人の数は、今年に入ってから急増しています。そうした理由から株式分割は、新NISAで増えた個人投資家の投資ニーズへの対応として期待できるのではないでしょうか。
少し古い情報ですが、東証は昨年の10月に「投資単位100万円以上の会社」というリストを公表しており、このリストには投資単位が100万円以上する会社が40社ほど挙げられています。この資料によると売買単位が一番高い会社はファーストリテイリングで、投資単位はナント800万円以上でした(その後株式分割を行い、現在の投資単位は400万円程度となっています)。
東証はこれらの会社に対して株式分割を促すことで、個人投資家の株式投資を喚起し、市場全体の流動性を高めようとしています。例えば、1株1万円の株が1:10で分割されると、1株1,000円となり金額面で投資のハードルが一気に下がります。最近では、JR西日本が1:2、スズキが1:4、キッコーマンが1:5、三菱重工業が1:10の株式分割を行いました。

株式分割が与える株価、流動性への影響について

株式分割は、短期的には株価にプラスの影響を与えることがあります。株式分割後は株価が手頃になり投資家が購入しやすくなるため、需要が増加して株価上昇の要因となります。例えば、1株1万円の銘柄が1:2の分割を行い1株5,000円になると、多くの個人投資家が購入を検討するようになります。このように、株式分割は一時的に株価を押し上げる要因となるのです。
また、株式分割により取引が増えることで株式の流動性が向上し、売買が活発化します。流動性が高まると、株式の売買が容易になり、市場全体の効率性が向上します。特に、株価が高額な銘柄では、分割前に比べて取引量が増加することが一般的です。例えば、1株10万円の銘柄が1:10で分割をして1株1万円になると、多くの投資家が取引に参加しやすくなり、同じ1,000万円の売買代金だったとしても出来高は10倍に増加します。
しかし、株式分割自体は企業の実質的な価値を変えるものではないため、長期的な株価上昇を保証するものではありません。株価水準は企業の業績や市場環境が重要な要因となります。投資家は、分割後の株価の動向だけでなく、企業のファンダメンタルズ(財務分析)にも注意を払う必要があります。例えば、分割後に業績が悪化するような場合、株価上昇は一時的なもので終わる可能性があります。

株式分割は買い材料? 投資家にとってのメリット

個人投資家にとって、株式分割は複数のメリットがあります。
まず、株価が分割により手頃な価格になることで、購入しやすくなるという点です。特に、初心者や投資にそれほど資金を回せない個人投資家にとっては、投資のハードルが下がるため、分割銘柄に注目する理由となります。例えば、株価が1株1万円の銘柄が1:10の分割をして1株1,000円になると、投資額が100万円から一気に10万円まで下がり、初心者でも購入しやすくなります。
また、株式分割の結果、企業の成長期待が高まり、短期的な株価上昇につながる場合もあります。投資家は、株式分割を行う企業が今後も成長を続ける可能性が高いと判断し、分割後の株式を購入したりするからです。例えば、成長が著しいテクノロジー企業が株式分割を行うと、その成長期待から株価が上昇するということがよくあります。
さらに、株式分割により流動性が向上し取引が活発になることで、売買のタイミングが取りやすくなるという点もメリットといえます。例えば、株価が高額な銘柄では、売買のタイミングを見計らうのが難しいことがありますが、分割によって流動性が向上すると、売買のタイミングが取りやすくなります。

事例で読み解く株式分割の効果

直近の株式分割事例を通じて、株価や市場の動きを見てみましょう。
例えば、東京エレクトロン(8035)オリエンタルランド(4661)の事例があります。
東京エレクトロンは、2023年4月に1株を3株に分割しました。分割直後の株価は1株15,710円(4/3終値)と少し下落しましたが、1カ月半後には分割前の株価に戻し、2ヶ月後には1株19,315円(5/31終値)と20%以上も上昇しました。それ以降上昇を続け2024年4月末の終値はなんと1株35,120円まで上昇しています。
オリエンタルランドも同時期に分割を行い、1株を5株に分割しました。分割前の取引高は平均的に300万株~600万株/日でしたが、分割直前の3/31の取引高は1日でなんと3,000万株まで増え投資家の注目を集めました。分割直後の株価は1株4,512円(4/3終値)でしたが、1カ月後には1株4,890円(5/1終値)、2ヶ月後には1株5,213円(6/1終値)と短期的な上昇がみられました。
これらの事例から分かるように、株式分割は短期的には株価上昇の要因となり、投資家にとって魅力的な材料となります。しかし、株式分割後の株価動向は、企業の業績や市場環境に大きく依存するため、企業のファンダメンタルズにも注意を払う必要があるでしょう。

押さえておきたい、これから分割が期待される銘柄

今後、注目すべき分割銘柄や分割が期待される銘柄についても見ていきましょう。東証が公表している「投資単位100万円以上の会社」リストには、今後分割が期待される企業が多く含まれています。これらの企業は株価が高いため、分割を行うことによって流動性が高まれば、より多くの投資家が取引に参加することに繋がるでしょう。
具体的には、次の3社が注目されます。
ソフトバンク(9434)
ソフトバンクグループ(SBG)の国内通信会社であるソフトバンクは、2024年9月30日を基準日として1株を10株に分割すると発表しました。投資単位は100万円を超えていませんが、1株およそ2,000円の株価(2024年5月20日終値1株1,924円)を1:10に分割することで投資単位額がおよそ2万円まで下がるため、若年層に投資家層を拡大させたい狙いがあるのではないでしょうか。併せて、ソフトバンクとしては初となる株主優待制度も導入し、傘下のスマートフォン決済PayPayが発行するPayPayポイントを付与することも予定しています。
キーエンス(6861)
キーエンスは、産業用機器やセンサーを製造する企業で、株価が高額な「値嵩株」の代表的な銘柄の一つです。過去2017年と2019年にそれぞれ1株を2株に分割していますが、2024年5月20日の終値が72,980円なので投資単位は約720万円となります。仮に1:10の分割を行ったとしても投資単位は、東証が望ましいと公表している最低売買単位の目安「100株の値段が5万円以上50万円未満」をオーバーしているため、今後の動向に注目すべきでしょう。
オービック(4684)
オービックは、会計・人事・給与・販売・管理・生産等の各業務を横断する統合業務ソフトウェア「OBIC7」シリーズを扱う独立系のシステムインテグレーター企業です。2025年3月期の連結純利益が630億円になる見通しと発表しました。これを達成すると13年連続で最高益となる見込みの注目銘柄です。今後の投資計画において、「増配や自社株買い、株式分割も含めマーケットの声を聞きながら株主還元を検討していきたい」と社長が話しているので、こちらも今後に注目です。

まとめ

株式分割は、投資家にとって重要なイベントの一つです。投資単位が手頃な価格になるだけでなく流動性が向上することで、投資のチャンスが広がります。短期的な株価上昇が期待できる反面、企業の実質的な価値は変わらないため、長期的な視点での投資判断が求められます。
特に、投資初心者は投資単位が小さくなることで投資へのハードルが下がるため、チャレンジしやすくなるのではないでしょうか。
東証の立会時間は、多くの方が仕事中の平日の昼間です。平日時間が取れないという方は、PTS(私設取引システム)を利用することで、東証の立会時間外でも売買が可能となり、投資の柔軟性が高まります。ジャパンネクスト証券PTSの夜間市場では、海外の急なニュースや市場の動きにも対応しやすくなります。投資する際の選択肢の一つとして考えておいてもいいでしょう。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2024年5月21日時点の情報に基づきます。
※あくまでも中村賢司さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。

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