金融・投資

2024.10.29

お金のプロに聞く『マーケットショックがあったときの投資行動』

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2024年8月、株式市場では大きな暴落が発生し、多くの投資家が動揺しました。このようなマーケットショックの際、どのような行動を取るべきか迷うのは自然なことです。そこで今回は、マーケットショックに直面した時に個人投資家はどう対応するべきなのか、ファイナンシャルプランナーとして多方面で活動する2人に見解を伺いました。

暴落が起きても、淡々と運用・積立投資し続けることが大事

8月のマーケットショックをどのようにご覧になりますか?

頼藤 太希(よりふじ・たいき)さん

頼藤 太希(よりふじ・たいき)さん

マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用 新NISA対応改訂版』(宝島社)など書籍100冊、著書累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧twitter)→@yorifujitaiki(https://twitter.com/yorifujitaiki
過去の日経平均株価をひも解くと、8月5日の1日の下落幅は過去最大で、下落率も過去2位となっています。下落幅で見ると、8月2日も過去3位になっています。
<日経平均株価の1日の下落幅・下落率ランキング>

(株)Money&You作成

何千円も値下がりしたというと暴落のすごさを感じてしまいそうですが、今回の暴落には特筆すべき点があります。それは、短期間で大きく値下がりしたものの、短期間で値を戻していることです。
<日経平均株価とドル円為替レートの推移(2024年1月〜9月)>

(株)Money&You作成

8月5日の日経平均株価の終値は3万1458円で底を打ち、翌6日には一気に3000円以上回復しました。そして8月末には3万8000円台となっています。
暴落相場とは、長期間にわたって下がり続ける相場を指します。こんな短期間で回復することは非常に稀です。過去の相場では、暴落から回復までに2〜3年、長くて5〜6年かかっています。
<主な暴落と回復までの期間>

(株)Money&You作成

後述しますが、暴落があったときには動じず、淡々と運用・積立投資を続けることが重要です。

どんなときにマーケットショックが起こると思いますか?

市場はさまざまな要因で暴落します。大きく分けると、以下の2つがあります。
・想定外で起こるもの(災害・疫病・地政学など)
・楽観が進みすぎる→急激な悲観で起こるもの(バブル崩壊・金融ショックなど)
加えて、最近の動向で注目したい要素には次のものがあります。
米国利下げ&景気後退
米国が景気後退を伴う利下げを行なった場合、株価が下落する傾向にあります。過去にも、1990年7月、2001年1月、2007年9月などの米国の利下げの際には、おおむね3か月から6か月後に株価の下落が起こっています。目下2024年9月に米国は0.5%の利下げを行いました。景気後退が進むなら、株価の下落が起こりうるかもしれません。
景気先行指数(LEI)
景気先行指数(LEI)は、米国の経済団体や労働組合などからなる非営利調査機関「全米産業審議会」(カンファレンスボード)が10の経済指標を組み合わせて算出している指数です。LEIは1970年以降、米国の景気後退のタイミングの直前に下がる傾向があります。
10の経済指標のなかで、全体を押し上げているのが「Leading Credit Index」と「S&P500」です。株価指数は景気の先行指標といわれているので、組み込まれているのには違和感はありませんが、景気後退のサインがS&P500次第であるという状況は納得しにくいかもしれません。現状、S&P 500が下落すれば、LEIも下がり、景気後退のサインになります。
大統領選後の動向
2024年は大統領選挙の年です。大統領選挙の前年と大統領選挙の年は、大統領が再選を勝ち取るために景気対策をするので、株価が下がりにくいといわれています。反対に、選挙の翌年やその翌年(中間選挙の年)は、株価が下落しやすいと考えられています。
よって、大統領選後の株価動向には注意です。

マーケットショックが起こった際の投資行動について教えてください

暴落が起こった場合にやってはいけないことは、大きく2つあります。
暴落時にやってはいけないこと①:資産を売却する
暴落時にもっともやってはいけないのは、資産を売却することです。
市場を揺るがすような大きな出来事があると、株価は一時的に暴落します。しかし、それで市場がなくなるようなことはなく、やがて値上がりし、暴落前の水準を突破しています。
暴落に動揺して売却してしまうと、その時点で利益(または損失)が確定し、その後の資産回復・上昇の恩恵を一切受けられなくなります。
暴落時にやってはいけないこと②:積立投資をやめる
暴落が起きても数カ月から数年で回復し、以後はそれ以前の水準を超えて値上がりしています。ですから、その後の資産回復・上昇の恩恵を受けるためにも、積み立て投資を継続しましょう。上で示した「主な暴落と回復までの期間」を把握しておけば、回復を待ちやすいでしょう。

事前の対策、準備について教えてください

暴落への対策として、備えておくべきことには次の3つがあります。
備えておくべきこと①:無リスク資産とリスク資産の割合を確認
自分が保有する資産に占める無リスク資産(現預金・個人向け国債)とリスク資産(株式・投資信託など)の割合を確認しましょう。無リスク資産とリスク資産の割合は、「自分の年齢」と「120から自分の年齢を引いた数字」で考えるのがひとつの目安です。
<無リスク資産とリスク資産の割合>

(株)Money&You作成

ただ、総資産が少ない場合はこの限りではありません。資産が120万円だったら計算上は「無リスク資産40万円、リスク資産80万円」ですが、無リスク資産40万円ではケガや病気で働けないなどのもしもの場合に備えられません。よって、最低でも生活費の6カ月分は預貯金などの無リスク資産で用意しておきましょう。
備えておくべきこと②:リスク許容度に合わせて投資資産を見直す
自分のリスク許容度に見合わない投資をしていると、相場が下落する局面では値下がりも大きくなり、落ち着いて投資を続けられなくなってしまいます。この場合は、リスク許容度にあった投資先に変更することが重要です。
たとえば、「全世界株型」や「米国株型」の投資信託は新NISAで人気ですが、100%株に投資する、リスクの高い投資信託です。もし、値動きが激しくて精神的に厳しい場合は、資産の一部を以下に入れ替えることで、リスク軽減が期待できます。
・債券やREIT(リート・不動産投資信託)など複数の資産に投資するバランス型投資信託
・債券に投資する投資信託
・REITに投資する投資信託
備えておくべきこと③:リバランス
リバランスとは、保有している資産の値上がり・値下がりによってずれてしまったポートフォリオの資産配分を元に戻すことです。
筆者は、リバランス効果があるのか、定期的に検証しています。詳細は割愛しますが、リバランス効果は確認でき、少なくとも年1回は行なったほうがベターです。
※以上は、2024年10月11日時点の情報に基づきます。

原点回帰というスタンスで、心の姿勢を保つようにしましょう

中山 国秀(なかやま くにひで)さん

中山 国秀(なかやま くにひで)さん

生活設計本舗 秀ちゃん ファイナンシャルプランナー
各士業・各金融機関・各専門分野の方々と密接な連係(連携)をとりながら、個人事業家として個々人の方々のコンサルティングを行う。CFP®(サーティファイド ファイナンシャルプランナー)。一級ファイナンシャル・プランニング技能士。IFA【金融資産コンサルタント】。日本ファイナンシャル・プランナーズ協会所属。

8月のマーケットショックをどのようにご覧になりますか?

2024年8月5日、日経平均株価は1987年のブラックマンデー超えの史上一位の下落幅を記録しました。 為替市場も大きく変動し、急激な円高による日本経済への大きな混乱から「経験したことのない打撃が追い打ちをかける」といった情報発信に、重い時間を過ごした方も多いのではないでしょうか。 大暴落翌日の日経平均株価は大幅反発(史上最大の上げ幅)となり、「危機が終わった」という楽観ムードが漂ってしまっているとも感じた次第ですが、今後さらなる株価下落が連鎖する可能性も否めない状況です。
今回は以下2つのタイミングがもう少し空いていれば、ここまで大きな株価下落にならなかったかもしれません。
①日銀の利上げ発言
まず、金利引き上げによる経済の冷え込みが懸念される中で、景気の下押し圧力への不安が市場に漂いました。さらに円高が進むことで輸出企業の収益減少への懸念が広まり、そのような思い込みや予断が市場に広がりました。
②米国の雇用統計の発表
また、米国雇用統計の悪化に伴い米国金利が下落し、金利引き上げ予定の日本との金利差が縮小することで予想外に日本円が買われ、円高が進行し、日本の輸出産業の業績悪化への懸念が高まりました。
ストレートな断言はできかねますが、“連鎖する金融危機という可能性”が一気に拡散した一大事であったといえます。

どんなときにマーケットショックが起こると思いますか?

マーケットショックは包括的なメカニズム・本質をとらえることが大切です。
ここでは、大枠で2点お伝えします。
市場での売買によるメカニズム
株価というのは、市場参加者による売買によって決まります。
買いが多いと株価が上昇し、売りが多いと株価が下落するというサイクルが繰り返されています。
株価暴落という一大事は 、なんらかの要因による多量の売りが出ることで、さらに買いが無い状態が続き、株価の下落が止まらなくなるという仕組みです。
一般的な売りとして、投資家が利益が出ている株式を手放すことを利益確定売り 、損失が出ている株式を手放すことを損切りといいます。
リスク発生に対しての『投資家懸念と憂慮感の蔓延』
まずは、株価暴落の前兆とも取れる一般的なリスクについて、イメージしましょう。
下図をご参照ください。
各リスクの詳細については割愛しますが、上記8つのリスクが経済にどう波及してくるのか。また影響が出るタイミングが当日なのか、翌日なのか、あるいは翌週以降なのかを自分なりに考察する習慣をつけておくことは理想的です。
一例として、政治不安や紛争勃発の懸念を抱える国はどこか?その国(主要都市)との時差はどれくらいか?その国の元首は誰で、その発言力が経済にどう影響を与えるのか?といった具合に、自分なりの「目の付け所」を持ち、焦点を合わせていくことは、リスクの発生に備えるうえでも意義があるといえます。

マーケットショックが起こった際の投資行動について教えてください

お伝えしたい前提として 、投資には人それぞれにリスクがあり、許容範囲は違えど容認と覚悟のある人だけが投資を行うべきといえます。 人生、リスクなく大きな利益だけを得るといった甘い考えは通用しません。このような前提の上で、マーケットショックが起こった際は、自分自身の投資に対するスタンスに原点回帰することを意識してみましょう。そうすれば自ずとどのような行動をとるべきか見えてくるはずです。
マーケットショックが起こった際の投資行動として、主要な選択肢は以下の3つです。
①全て売却:最初からなかったものと腹をくくる
②一部売却:減額して継続していくという方向性へのシフト
③これまで通り、継続・続行していく
このうち、どの選択肢を選ぶかは、投資をする本人の投資に対するスタンスによるところが大きいでしょう。
一括投資なのか、積立投資なのか?株の売買なのか、あるいは金投資なのか?お金を旅に出す方法、観点やスタンスは十人十色です。これからの投資への方向性を決める上で、正解はいつの時代も自分自身が持つものと考えると、ある意味、直感的な判断も間違いとはいえません(右脳的感覚とも表現できるでしょう)。
とはいえ、自分なりのブレない投資スタンスとは何か、つかみきれていないという方は、マーケットショックが起きたときには以下のような考え方を意識なさってみてください。
・『投資の一番の敵は己の心』と再認識できる良き時機
・『ネットや YouTube の情報を鵜呑みにしない』情報発信者/発信元の意図を考える絶好の機会
このような意識と共に、ご自身と家族のライフプランを確認し、長い人生におけるライフイベントを見つめ直してみましょう。そこからもう一度振り返って、適切なアセットアロケーション(資産配分)・リバランス(軌道修正)を実行してみることが、真の資産運用・資産形成の王道といえます。

事前の対策、準備について教えてください

株価暴落に代表されるように、将来を断定予測できない中で参考にしたい2つのことをお伝えします。
備えておくべきこと①:過去の暴落を知る
まず1つ目は、過去に何が起きていたのかを知ることといえます。
以下は、過去の市場暴落として代表的なものです。
《下げ幅と代表的な出来事》
  日経平均株価 前日差(金額) 影響の発端となった出来事
1987年10月20日 21,910.08 円 ▲3,836.48 円 ブラックマンデー
1990年4月2日 28,002.07 円 ▲1,978.38 円 バブル崩壊
1991年8月19日 21,456.76 円 ▲1,357.61 円 ソ連 8 月クーデター
2008年10月16日 8,458.45 円 ▲1,089.02 円 サブプライム住宅ローン危機~リーマンショック~世界金融危機
《下げ率と代表的な出来事》
  日経平均株価 前日比 影響の発端となった出来事
2001年9月12日 9,610.10 円 ▲06.63% 米国同時多発テロ
2011年3月15日 8,605.15 円 ▲10.55% 東日本大震災
2013年5月23日 14,483.98 円 ▲07.32% アベノミクス相場調整:中国の景気指標悪化
2016 年06月24日 14,952.02 円 ▲07.92% 英国 EU 離脱他
他:
1929年 世界大恐慌
1972 年 オイルショック
2000年 米国 IT バブル崩壊
(日経平均プロフィル 日経の指数公式サイト参照、筆者にて編集)
株式市場では、これまで何度も大暴落が起こっています。過去に大暴落を経験し、一気に株を手放した方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、ここで重要視したいのは「市場全体としては上がり下がりがありつつも、長期では確実に株価は上がっている」ということです。
もちろん、市場暴落後の米国株式・日本株式それぞれ、回復までの年数などは各項目で大きな違いがあり、回復する過程では投資した金額が半額以下になるなど、苦難に直面することもあります。それでも、過去の株価の動きを知っておくことで、焦ってパニックになってしまう可能性を減らせるはずです。
備えておくべきこと②:長期的な視点を持つ
そして2つ目は、一時的な株価で一喜一憂することなく、長期的な視点で資産を増やしていくという心の姿勢が重要だといえます。
株式市場は、そもそも乱高下するものです。「暴騰もあれば暴落もある」という現実を受け止める覚悟を持つ必要があります。また、同様の出来事がいつやってくるかもわからないという現実と向き合う姿勢を身につけたいものです。
「資産所得の倍増のために、NISA の恒久化が欠かせない」
これは、2022年の岸田前総理大臣による、ニューヨーク証券取引所においての発言です。
資産所得倍増プランは、岸田前内閣の掲げる「家計の資産を、貯蓄から投資に振り向けること」を目指すものです。
家計が保有する 2,000 兆円もの資産は、半分以上が現預金だといわれています。
「貯蓄から投資へ」というフレーズと共に、誰もが投資をしたほうがいいという空気感が漂っている新 NISA 制度ですが、今回の株価暴落により「投資は怖いな」というイメージを持ち、積立投資に終止符を打つ方も多くなるのではと推察ができます。
資本主義経済にとって、株式市場の暴落がただならぬ影響を及ぼすことを改めて思い知る時でもありました。
しかしながら、視点を変え・先入観を一旦忘れ・原点回帰と意識することによって、劇的な好機と考えてみてはいかがでしょうか。
※以上は、2024年10月4日時点の情報に基づきます。
※本記事は、あくまでも執筆者個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。

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